アンダー・サスピション
木曜日の話なんだけど、家に帰ると父親が「今日は映画を見るんだよ!」とリモコンを手にTVを付け始めた。父親が率先して映画を選ぶのはとても珍しい。「へーっ、何やるの?」と聞いたら「知らん!でもこれから始まるんだよ」とか言い出した。で、始まったのがコレ、「アンダー・サスピション」だった。
正直言って知らないタイトルだった。サスピション(suspicion)とは、「疑い、嫌疑」の意味がある。タイトルからは内容は容易に想像は出来なかった。私も作業していた手を止めて隣で見始めたんだけど、そのテーマの複雑さと、意味の濃さにだんだんと目が離せなくなってきて、最後には「うーん」とうなってしまったのだった。
以下、ネタバレ覚悟で書いておきたい。
地位もお金もある初老の男性が少女殺害の罪で取調べを受ける。彼には不釣合いな程に若くて美人の妻がいて、その仲は「良いとはいえない状態」だった。重要参考人として捜査を続けていく警察は、さまざまな状況証拠から彼が犯人であると確信する。あとは決定的な物的証拠と動機が必要なだけだった。警察は家宅捜査の依頼を妻にするのだが・・・。
いわゆる犯罪ドラマやミステリー、サスペンスの類で考えると別段特別なストーリーではない。登場人物が多いワケでもなく、謎が複雑という程でもない。モーガン・フリーマンとジーン・ハックマン*1の演技はやはりなかなかだ。
映像表現は少し変わった所があって、語りのシーンは「プレイバック」ではあるものの、話を聞いている人物もその場にいるという感じで表現している。過去と現実、記憶と虚構の狭間をそれぞれの人が行き来しているのだ。映像が真実とは限らない。だが、これにしても「他の追随を許さない」という程の特徴ではないし、それが一番の見所という程でもない。
では、私が感じた特筆すべきところは何か?といったら、「テーマの複雑さ」だと思った。この映画はとても解釈に苦しむ。少ない登場人物それぞれの立場で考えると、いろいろと考えさせられる点があるのだ。
具体的な話をしよう。ここは完璧に【ネタバレ】だ。
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容疑者の男性には若い妻がいるにも関わらず、夫婦としての生活を拒み続けられている。警察としては、これが「欲求の不満」であり、「動機の一つ」として状況証拠にしていくことになる。普通の映画やドラマであったらそれは重要な要素になり、「悪いのは我慢できない男」という事で解決に向かう。ここで考えを変えてみる必要がある。本当に男が悪いのか?と。「拒んでいる妻は悪くないのか?」と。
ちなみに妻が拒んでいる理由は「嫉妬」という事になっている。だが、これも本当にそうなんだろうか。そこは多くは語られていない。夫婦のバランスが崩れた原因は何なのか。もしそうなってしまった時に、夫が取るべき道はどこにあるのか。夫とは何なのか。妻とは何なのか。それぞれが求める物と、それぞれが与えられる物は何なのだろうか。夫婦とはどうあるべきなのだろうか?
そして、そこに「捜査」という法の名の下にズカズカと入り込んでいく警察官。彼らが行っていたことは、本当に正義だったんだろうか。そして、その結果は何を生み出したんだろうか。。。
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この映画を見終わった時に、一番の加害者は誰なのかを考え、一番の被害者は誰なのかを自らに問いてみた。その答えが出る事はないかもしれないが、事件が解決したとしても、解決しない問題が多数残っていることに気が付いた。
製作されたのは「2000年」。日本での公開は「2003年」。もし、その頃にこの映画を見ていたら、私はこんな風に考えられたんだろうか。きっと、今と違う感想を抱いていたに違いない。。。
映画というのは本当に奥深いと思う。