エクスペリエンス戦略と不信感
会社の人と話をしてて。
スマホの機種変更を考えているという人が、なかなか踏み切れないといっていた。なんでですか?という事を聞いていたら、「次の機種の方がいいかも知れないじゃないですか」という。
自分も普段そう考えたい多様な節があるので、聞き流すところだったんだけど、改めて考えてみるとこれってすごく残念な事だな~と。企業にとってはいい事なのかもしれないけど、ユーザーは本当にいいことなのだろうか?と。
少し話が変わるが、ゲーム機の話し。
よくある話として「Vitaの新機種はいつ出ますか?すぐでますか?」という。カラーバリエーションですら半年で出たのは異常な事態なのに、そんなに直ぐにホイホイ新機種が出るわけが無い。もともと数年のサイクルで1つの機種を売り続ける前提で設計しているのに、だ。
だが、一方の事実として、スマホや携帯電話は半年とか3ヶ月のサイクルで新製品が出てくる。
それが既にあたり前になってきている。
だから、直ぐに出るように錯覚している。
その前何ヶ月も何年(携帯電話だとそこまでは無いかもだけど)もかけてハードウェアの設計、デザインをしているのに。
そして、製品の発表と発売までの時間も、昔に比べて異様に短くなってきている。
発表当日に発売!というのは、もはやアップル製品ではあたり前で、それこそが「ユーザーエクスペリエンス」だという形で、ユーザー側もお約束的にそれを期待しているところがある。
携帯電話会社も出来るだけ情報はギリギリになってきていて、数週間前というか数日前というのも普通になってきた。また、広告として「ティザーサイト」という形で、カウントダウンイベントをしてみたり、小出しの情報で煽ってみたり。
それも、一種の「ユーザーエクスペリエンス」だとして。
気が付くと。
私達は、様々なユーザーエクスペリエンスがあたり前になりつつあり、それがあるであろうと勝手に期待するようになっている。
そして、その期待から「今新製品を買うと損する」とか「今は買うべきではない」「私が情報を知らないだけ。きっと詳しい人がいるハズ」と、不信な目で世の中を見るようになってしまっているのではないだろうか。
以前、車を買ったことがある。
その車種としては不人気なカラーが私のお気に入りで、ディーラーとの交渉の中で値段とサービスの面で買うかどうかすごく迷っていたときの事だ。
ある日、平日の昼間にその担当の営業の人から電話がかかってきた。
「お客様の希望されている車種のカラーなんですけど、工場のラインが近々一時的になくなると情報が入って来ました。工場で取り付けるメーカーオプションについては、しばらく対応が出来なくなって納車が遅れてしまいますので、ご検討いただけますでしょうか」
と。カラーが不人気が故に、工場の生産ラインが絞られるというのは、製造工程上はやむをえないもので、なるほど確かにそういう事もあるかもね?と、その週の週末に決断して契約をしたのだった。
その翌週、その車のマイナーチェンジが発表された。
値段も少し下がっただけでなく、標準オプションも増えていた。
カラーが不人気だから一時的に止まったのではなく、マイナーチェンジに合わせて不人気なところから止めたのだ。予約が入っているところは、止められないが、入っていないところから止めただけの話だ。
私は思った。あー、煽られてだまされたな、と。
この話しとしては、当然そのディーラーの営業さんの方が私より一枚も二枚も上手だっただけの話しで、個人的には特にうらんだりとかはしていないし、自分が気に入って買った車種だったので、マイナーチェンジ前だったとはいえ、納車された車は結構気に入っていた。
でも、その経験から「悩んでいる間は買わなくてもいいや」という、一種の消極的な自分も生まれた。
お客様を気持ちよく、楽しく、おもしろく、驚きを価値として与えるという「ユーザエクスペリエンス」。
気が付くと、それを得られる事を期待するあまりに、すべての事に不信感を持ったり、懐疑的になったりしている世の中が生まれている気がする。
私達の求めるワクワクっていうのは、どこにあるんだろう。
不信感を抱えた上でのワクワクは、本当にそれでいいんだろうか。