みた、こと。きいた、こと。

合言葉はSite Seeing

蹴る人。

会社に来る途中。駅のホームで。実は数日前の事。

冬の装いで着膨れした人々が、到着した電車から沢山降りてきた。乗換駅であり、反対側の電車を待つ人もいた為、ホーム上は端からこぼれんばかりの人で溢れていた。
そんな中、年の頃は20代前半のカジュアルな格好をした男性がホームの端をポケットに手を突っ込みながら歩いていた。見た目が大人びているだけで、10代後半かもしれない。その彼は余所見をしていたからか、そもそも避ける気が無かったのか、逆方向に歩くサラリーマンと肩と肩がぶつかってしまい、結果的によろける形となった。
この忙しい時期で彼はなにやらイライラしていたのだろう。彼は『テメェ!』と叫び、姿勢を戻すと直ぐにそのサラリーマンに向けて後ろ蹴りを加えた。ポケットに手を入れたまま。
彼にとっては運悪く、サラリーマンにとっては幸いにその攻撃は外れ、後ろ蹴りは誰にあたるでなく空振りに終わった。
だが、その蹴った反動で彼はまた前のめりによろけ、最初にぶつかったサラリーマンの後ろから来た別の男性の胸に顔をうずめる形となった。そして、改めて姿勢を元に戻すと、『ふざけんな、テメェ』と誰かに向けた捨て台詞を残しつつ、彼はホームの階段に向かって去っていった。
空回りである。彼にとって全てが空回りとなっていた。

何かを学んだ話ではないが、そんな事があった。