みた、こと。きいた、こと。

合言葉はSite Seeing

『見えぬ化』

昨今。昨今。コンピュータというかITの進化によって、様々なものを『見える化』するという、一種のブームがここ何年か続いている。ブームといっていい。言い切っていい。
一種のビジネス用語なので、言葉の定義がよく判らない人もいるかと思うので、一応Wikipediaから引用するとこんな感じの説明がある。

見える化 (Wikipedia)

見える化(みえるか)とは、広義には可視化と同義だが、狭義には可視化されづらい作業の可視化を指す経営上の手法として、一部の人が使っている言葉である。学術的な用語として確立した言葉ではない。この語は、もともと、企業活動の漠然とした部分を数値などの客観的に判断できる指標で把握するための可視化に対して用いられた。

うーん。漢字が多い。
身近な例としてあげるとすると、震災以後そこかしこで見かけるようになった電力の供給量グラフだとか、駅の大型ディスプレイに表示される遅延状況路線図とかそういう話だと思っている。数値にするものとは限らず、視覚的、感覚的に判りやすさを前面に出す表現手法と言える。

ただ、ここには4つの落とし穴がある。
この落とし穴をきちんと塞いでおかないと、『見える化』は『見えぬ化』になる。

見える化の落とし穴
  1. 自動的に出来る仕組みを作ること
  2. 情報過多にならないこと
  3. 誤解しやすい表現にしないこと
  4. 情報量が偏っていないこと

である。特に重要なのは最初なんだけど、それは最後に説明する。

情報過多にならないこと

見える化する時に、グラフを用いたり、色彩豊かにしたり、地図上に配置したりすることで、なんかすごく判りやすくなる気がすることから、いろんな情報を載せたくなる。
結果として、同じようなグラフが5つも10個も並んでいたり、円グラフや棒グラフ、折れ線グラフなどの使い方(グラフの種類には表現したいものごとにあるので意味を間違えて使ってはいけない)を間違えていて、視覚的に判りづらくなっていたり、色に凝ってしまい、統一感が無くなったり、デザイン重視な資料を作る時間が余計にかかってしまったり。本末転倒になりやすい。
これを回避するには1つしかない。
「目標を設定すること」
である。その目標を表現する為の情報の可視化としての『見える化』なのだから、ここは間違えてはいけない。

誤解しやすい表現にしないこと

情報過多と逆に、情報を絞り込みすぎたりすると、正しい情報にならなかったり、逆に誤解を与える表現になったりする。
最近のわかりやすい例でいうと『電力会社の電力供給グラフ』がそれだ。
これはこれで『見える化』としては正しい例ではある。このグラフは各時間帯1時間毎の使用可能な供給量に対する100%の割合で表現しているのだが、ここに問題があった。この『供給量は変動する』という点だ。
100%のグラフの場合、人は無意識に『100%は最大』と考えてしまう。グラフも上限だし。だが、電力会社が事前に計画したその日、その時間帯の供給予定量に対しての割合だということで、一時これが『電力不足は電力会社の陰謀』などと問題視された。
電力供給の仕組み上、そういう表現になるということは致し方ないことではあるものの、誤解を生みやすいものであったことは否めない。
夏場の電力供給のピークが過ぎたのであえて話題にしてみた。この例として。

情報量が偏っていないこと

統計の世界では、母集団というデータの数がとても大事だ。
良くある『営業成績グラフ』みたいな奴。それ自体は見える化のよくある例として知られるもので、使い方としては正しいんだけど、グラフにする母集団がどれぐらいあるのか?というのが問題。
仮にこれが小売店の『売上高』みたいなものであれば、特に問題は無い。商品自体の値段はそれほど高くなく、数が沢山出るものだから。だが、月に数件取れるかどうか?という『ビジネスの契約金額』の場合。金額の単位が大きく、1つ逃すと大きく減ったり、逆に大型案件で一気に増えたりするものでは、見える化したグラフの変動幅が大きくなりすぎて意味を成さなくなる。
そんな数字に一喜一憂していては、疲れるだけだ。無論、ビジネスとして経営者はこれを直視しつつ考えなければならないが、現場がこの数字に振り回されたらモチベーションが上がるものも上がらない。
そういう見える化はナンセンスといえる。

自動的に出来る仕組みを作ること

これが一番大事。
極力。というより、完全に『自動化』したものを元のデータとして使わなければ『見える化』の意味は無い。
よく、売り文句として『自動的にレポートが出ます』というのがあるが、これはあくまでも『レポート作成』の部分だけであり、元データが自動的に集まるものをさしている訳ではない。
というか。
人は。
人というものは、どんな場合であれ、100%正しいものではない。
なので、人が入れるデータほど信用できないものはない。
具体的な例でいうと、コンビニのPOS端末がある。有名な話として、POS端末にはお客様の情報(性別・年代)を登録するボタンがある。無論見た目なので、正確なものではないが、それでも重要な情報として定義された。現在では、この値は6割が間違っていると判断されている。*1
コンビニで『当店のポイントカードはお餅ですか』『えっ』*2というやり取りの裏には、『お客様の情報を自動的に入力する仕組み』がある。ここまでしないと意味がなく、これがあるからある意味正しい『見える化』が出来るという。
とはいえ。自分の顧客情報(たかが性別と年齢とかそういう話だとしても)が記録に残るのがなんとなくイヤで、未だにポイントカードを持っていない人がいるということが有り、それはそれで確実な見える化にはなりえないという事実も認識しておく必要がある。

具体的に言えば、自分のことだけど。カード持って無い人って。

見えぬ化

上に書いたような落とし穴をきちんと理解して埋めておかないと、『見える化』は『見えぬ化』になる。
例えば、経費削減を目的として、交通費の精算をより細かく、事前の申請をしたり、システムに登録をさせるように促したりすると、結果として『登録するのメンドクサイ』という事になり、『見えぬ化』になる。
見せたいものが判らないままにいろんな情報を出したり、誤解しやすい情報が出てくると、出てきた情報を元に判断してしまい、現実が『見えぬ化』になる。
『見える化』と『見えぬ化』は紙一重である。
大事なのは、『何が見たいか』であり、そのために『どうしなければならないのか』をしっかりと考えることで、その下地が出来ていない状態ではじめても、上層部が張り切ったところで、現場は疲弊しきるだけの話である。

まる。

*1:参考記事⇒http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20100927/352372/

*2:参考記事「なにそれこわい」⇒http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%CA%A4%CB%A4%BD%A4%EC%A4%B3%A4%EF%A4%A4